相模屋美術店が主としてあつかうのは“美と品格をたたえた日本画”です。創業者・原田吉蔵氏が店を構えたのは一九四七年のこと。家業として代々受け継がれ、十年前に三代目の裕介さんが早逝して以来、妻の裕季子さんが切り盛りしています。
すずらん通りのS・Fビル五階に上がれば、凛として心落ち着く空間が広がり、裕季子さんの生家が茶道具商というのも、思わず納得。まるでにじり口から茶室に入ったときのように、日常のわずらわしさから解放されます。
明治、大正期に描かれた日本画を好んで揃えるのは、「絵の世界に呑み込まれるように没頭できるから。生きることに困難を感じる世の中だからこそ、シリアスな美しさだけをお見せしたいのです」。
所蔵品は季節ごとに入れ替わり、また“取り合わせ”を熟慮して展示されています。この日は上村松園の掛け軸と鮮烈な青色が印象的な清水操の『清ら海』。キャプションをあえて取り払い、前情報なしで作品と向き合う場をつくるのも、“いいものをよく見せるためには引き算が肝要”という美学のあらわれです。
約二五〇店の画廊がひしめくアートの街・銀座において、相模屋は若い世代に日本画の魅力を伝えていくのも大切な使命と考えています。たとえば泰明小学校の美術の授業の“画廊巡り”に協賛し、四年生の子どもたちに美術鑑賞とはなにかを教えています。
「作品と向き合ったときの感情を言語化することは、人生の荒波を乗り越えるときに必ず役立ちます」。裕季子さんのアイディアとして、子ども向けの茶会や、早朝にコーヒーをふるまうサロンなど、日本画との気軽な出合いの場も創出しています。
出歩くだけで体が茹(ゆ)だりそうな季節。静謐(せいひつ)な画廊で、心を涼やかな美の世界へ解き放ってみては。
(写真:大森ひろすけ) |